健康利益の確実性を向上させるためには、《正しいもの》を《いいもの》に自動変換する仕組みが求められる。自動変換する仕組みには、2つの歯車がある。一つ目の歯車が、損失回避の方向に回転し、予防焦点(ネガティブな結果に反応→強い義務を記述)を醸成する《課題づくり》、もう一つの歯車が、利得接近の方向に回転し、促進焦点(ポジティブな結果に敏感→強い理想を記述)を生成する《市場づくり》だ。

これら2つの歯車がうまくかみ合うことによって初めて、健康利益の確実性が向上する。そして課題づくりには戦略PRが、市場づくりには広告プロモーションが高性能モーターとして駆動する。

日本のヘルスケアビジネス史上、最も歯車が高回転した例が、「メタボ」という課題づくりと「メタボ市場」という市場づくりであろう。メタボ関連の商品、サービス、さらに施設に至るまで、市場は大きく成長した。このケースを見ると、課題づくりには、それに伴う損失を回避したいとしながらも、親しみやすさ(話題化しやすさ)が重要であることがわかる。もし、「内臓脂肪型肥満」という難解な用語のままだったら、自分にとっては関連性の低いことと思われて、ここまで浸透はしなかったのではないだろうか。あるいは、「中年太り」という不快な言葉のままだったら、口にしたくも、されたくもなかったはずだ。

このように、(描写的に)イメージしやすく、(文脈的に)わかりやすいかが、親しみやすい課題づくりの肝になってくる。メタボ同様、「ロコモ」(運動器機能不全)、「肺年齢」(慢性閉塞性肺疾患/禁煙)、「A G A」(男性型脱毛症)、「かくれ不眠」(軽度短期不眠状態)など、親しみやすさを踏まえ、関連性が高いと感じられる言葉が生まれている。これによって、他人ゴト→世の中ゴト→自分ゴトへの誘導(メタボやロコモ、かくれ不眠のケース)、ないし関連性に消極的→積極的に導く工夫(肺年齢やA G Aのケース)がなされている。